セレニティカウンセリングルーム

日別: 2007年12月20日の記事一覧

迷子とおじいさん

デパートへ行ったときのこと。売り場で品物を選んでいると、どこかから男の人の声が聞こえてきます。

「何かしら?」と思っていると、そのうち子どもの泣き声がしてきました。次第にそれが大きくなります。

声のする方を見ると、エレベーター前にお年寄りの男性と、泣いている男の子が立っています。声を聞いて、近くの売り場から店員さんが一人、そしてまた一人と、駆けつけてきました。

どうやら、迷子の男の子を見つけたおじいさんが、通りすがりに男の子に声を掛けた模様です。

男の子は泣き続けています。おじいさんの声は次第に大声になってきて、「エレベーターが…」「親はどこにいるんだ」「親の顔が見たい」というようなことを言い続けています。

私は、店員さんが来たのでもう大丈夫と思い、買い物に専念しようとしました。ところが、おじいさんの声がイヤでも耳に入ってきます。「親は何してるんだ!」と一層大きな声で言い続けています。

気になって振り向くと、二人の女子店員につきそわれて、男の子が売り場の奥の方へ移動していました。歩きながらも男の子は泣き続けています。こういう時はお母さんの顔を見るまでは不安でしょうがないものです。子どもは泣くことで自分を保っています。

私にも経験があります。自分自身が迷子になったときの経験と、親になってから、息子が迷子になったときの経験が。その経験から言っても、こういうときは親の顔さえ見れば即笑顔なのです。

だから、店員さんに保護された時点で、どんなに泣いていてもお母さんが来れば大丈夫、とホッとしたのです。

ところがです。おじいさんはずっと「母親は何してるんだ!」と怒気を含んだ声を張り上げています。そして、店員さんと男の子が移動する後から、おじいさんもトコトコついていくではありませんか。

店員さん二人が「ありがとうございました」と何度も何度もお礼を言いながら遠ざかっていくにもかかわらず、おじいさんは「どんな親なんだ」「どんな親か顔を見てやろう」と繰り返しながらついていくのです。

なんだかイヤーな気持がしました。誰でもうっかりすることはあります。まして子ども連れで買い物をするのはすごく神経が疲れるし、体力も使います。

十分気をつけていても思いがけないことが起こります。たとえば自動ドアが開いた拍子に子どもが出て行ってしまったり、エレベーターが開いた拍子に乗り込んでしまいそうになったりと、本当に買い物どころではありません。

子どもを預けて出かけられたり、一緒に買い物をしてくれる人がいればよいのですが、場合によっては一人で子どもを連れて買い物をしなくてはならないこともありますし…。そんなとき、ほんの一瞬のスキで子どもが迷子になったりするはあるのです。

男の子と店員さん達が奥に行き、静かになったので、私はとにかく買い物をすませようと品物選びに戻りました。そして、しばらくして振り返ると、お母さんが子どもをダッコして何度も頭を下げているのが目に入りました。お母さんはホ笑顔で何か言っています。おじいさんも何か言っているようでしたが、聞き取れません。その場の様子から、母親を執拗に責めているようには見えませんでした。

お母さんがあんまり嬉しそうなのと、男の子が泣きやんだので、おじいさんも拍子抜けしたのかもしれません。

どうなることかとハラハラしていた私も、やっと買い物に専念できるようになりました。

それにしても、おじいさんはデパート歩きが日課なのでしょうか。買い物をする風でもなく、時間をつぶしているように見えました。それにあの怒りは、おじいさんの中に不満や憤りが溜まっていたとしか思えません。これからは高齢化社会、いろんな世代がどうやってつきあっていくか、お年寄りがどんなふうに自分の時間を使うかなど、考えなくてはいけないこともたくさんありそうですね。

だからこそ、もうあとほんの少し温かい目で、子育て中の親御さん達を見守るゆとりを持ちたいなあと思います。もちろん自戒を込めてですが。